熊本に来た。 ちょうど仕事が煮詰まっていたり、友人がわたしの所為で失恋したりで心が辛かったので、これ幸いと大阪から逃げ出した。ちなみに、わたしの所為といえどもわたしが盗ったんではない。 気づかぬうちに、活力、とでも言うべき自分の動力の容量がすり減っていて、急にガクンと前に進めなくなる。そうなると、何も考えずとにかくどこか別の所へ動かなければならない。なるべく遠く。 ぎりぎりまで天草に行こうかと思っていたけれど、車の免許を持っていないことが痛い。大阪在住だと、免許が無くてもなんとなく今まで生きてこれてしまった。そう言うわけがあって、まだアクセスしやすいだろうと阿蘇に行くことにし、航空券をとった。 最近、思う。なぜこんなに満たされないのか、と。恵まれた環境に生まれ落ちて、好きなことして生きてるはずなのに、わたしのやりたいことは散らばりすぎていてしょうがない。ひとつひとつ拾い集めていたら、実はその周りにあった何か途方もないもの見逃してるんじゃないかと気になり始める。 ただ欲張りなのかもしれない。でも、何かこの休まらない気持ち(時に不安、時に怒り時に罪悪感)をかかえて生きていると、生を真正面から享受しきれない。そもそも生きるという行為について受動的なわたしは、誰のために生きるでもなく、「生きてるという事実はもうどうしようもないんだし、どうせなら楽しいほうがいいね」というあてこすりの言い訳をして現在まで来ている。 すごいなと思う人はたくさんいる。新たな概念を生み出しぼんやりとしていた思考の片隅に光を当てる研究者やアーティスト。優しくて優秀な起業家。世界的に力をもつ機関のパワーバランスの荒波の中で勝ち抜いている人々。自分のただしいと思う活動を地道に小さく続けている人々。もっと、もっとたくさんいる。これら全ての種類の人たちが直接目にできる範囲にいる。始めようと思えば、なんだってすぐにできそうな気がしてくる。なのに、いろいろなものに愛着が湧きやすいわたしの心は、それと同時に疲れやすい。だんだん何者にもなれない気がしてくる。なれなくてもいいね、と暗がりに腰をかけようとする。 安住の地はどこにあるんだろうか、もしくは果たして存在するんだろうか。存在していない場合は、作らなければならないんだろうか。わたし、が??? それがもし他人の領域を狭めてまでして作るものであるならば、それを必要としていることに苦痛を感じはしまいか。他の人よりは、痛みにはもう慣れていると、無鉄砲にも思う。そんなことを言っておいて、もし今バスジャックにあったらわたしは他人の身代わりになるだろうか。 ふわふわと思考を漂っているうちに、ふと光が目を刺した。 飛行機から見えた夕方の空が、これまで飛行機から見た景色で一番美しかった。青、「つきぬけるような」表現はこういう色を表すんだなあ、っていう青のしたには、黄緑、黄色、オレンジ、種、赤、紅、紫、群青ってつづいて、そこから雲海、雲海からほのかに見える山頂。 生きていてよかったと思った自分がいた。こうやってまた、生への欲望が湧いてくる。 阿蘇は、移住者が多い。都会の人がいろんな理由で移住してくる。定年後移住、放射能を気にして、オーガニックライフに憧れて。雄大な自然と、同時にそういう移住者の商売っ気のうすい店が多い。意識的にその店々に近しい雰囲気を着込んで、ぶらぶらと覗き歩いてなにげない会話をする。手作りの、自給自足の「豊かな」生活はもちろん素晴らしい。とても好ましい。 そうは思うけれど、一方自分の幸せだけでは満足できないのが自分の性みたいだ。自分の満足のために一つ一つ手間ひまかけて自分の好きなものだけで世界を満たすことができないほどには世界の色々な所で困っている人と知り合ってしまった。わたしは物事を知りすぎたし、知ってあえて遮断できるほどの割り切る勇気もない。お金は誰かの時間をいただいて物事を効率的にすすめる手段。だから、ある程度 "earn to donate" なお金の稼ぎ方が自分には合ってると思うし、広く世間、世界に作用するような忙しい都会人であれるように仕向けている自分がいる。ただ、やっぱりその生活は疲れるのだ。 美しいものだけみて美味しいものだけ食べて、写真を撮って過ごす時間。自分が闘い、時に空回る場所から自分を引き剥がす作業。それがこの小旅行である。 広い空の下で思い切り空気を吸い込み、名水を飲み、自分のなかの汚いものを追い出すことに注力する。決して時間に急かされないように注意しながら。 欲張りな好奇心が熊本城を見てみたいと囁くも、怠惰な身体はもう、阿蘇に沈没するつもりを決め込んでいる。
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Hrk writes. 両極端の、どちらも自分 Archives
November 2021
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